「神経変性疾患領域における基盤的調査研究」班編
ハンチントン病と生きる ―よりよい療養のためにー Ver.2
ハンチントン病研究グループ 2017 年 2 月改訂版 より転載
http://plaza.umin.ac.jp/neuro2/huntington.pdf

ハンチントン病患者さんの症状の程度や進行は本当に様々です。そのため、 たとえば舞踏運動が出て発症したことに気づいてから、○年で仕事ができなくなる とは言い難いです。仕事は本人の負担にならなければできるだけ続けてほしいと思います。ただし、高所での作業や職業的な運転などの不随意運動のために危険が予測できる場合は、少し早めに仕事の内容を変更することを相談してください。また、 人間関係のトラブルについては、職場の同僚や上司に職場での様子を伺い、主治医に伝えていただけると、主治医もアドバイスしやすいです。

不随意運動や精神症状を抑えるお薬を適切に処方してもらいましょう。ご本人やご家族は不随意運動を抑える向精神薬が増えることをあまり好まれない場合が 多いですが、適切な量を調整することで、薬のために眠くなったり、ボーとしたりすることなく、不随意運動をかなり減らすことは可能です。

この後は、いずれも不随意運動に関連した症状への対応の質問です。まずは不随意運動を改善するお薬を適切に処方していただくように、主治医とよくご相談ください。その上で、以下を参考になさって下さい。

我慢ができないのはこの病気の症状の一つです。また、不随意運動が激しいとかなりカロリーを消費するので、他の人よりもおなかがすくことが多いのも確かです。お食事の時はできるだけすぐに食べられるものを用意しておいてください。 また、詰め込みなどによる窒息を避けるために、小出しに食物を渡して下さい。

食べ物の詰め込みはこの病気の症状の一つです。この病気では速いスピードで口の中に食べ物を入れることが多く、口の中は食べ物が詰め込まれた状態になり、 飲み込みきれなかった食物でむせてしまいます。ゆっくり食べるように声かけをすることは効果があります。また、食器やコップを重めにする、手首に重り(リストバンドなど)を付ける工夫で食べ物を口に運ぶ動作を遅くできることもあります。

スプーンを小さ目にし、一度にすくう食べ物の量を少なくすること、あらかじめ食べ物の大きさを小さめにカットすることも、のどを詰まらせないようにする工夫として有効です。

まずゆっくりお話ししてもらいましょう。本人が何か言いたいときは、長い 文章で話してもらわず、重要な単語のみを言ってもらいましょう。その際、指を折りながら話していただくと一つ一つの発音がはっきりしやすくなります。本人から 聞きとった単語をヒントにこちらで内容を構成し、イエスかノーで答えてもらう質問に換えて訊き直しましょう。こちらから本人へ質問する場合も、イエスかノーで 答えられる質問に工夫してください。

さらに、ご本人が言いたそうな内容、あるいはこちらが聞きたい内容の文章 (「おなかがすいた」「散歩したい」など)をいくつか作り、あらかじめ紙に書くな どして、本人に言いたいことを指してもらいましょう。ゆっくり回答できる環境にすると、落ち着いてお話ができることが多いです。

病気が進行するとあまり体を動かさなくなってしまう患者さんが多いです。 このような場合、運動量が少ないために二次的に運動機能が落ちてしまうことが多いので、理学療法は大変有用です。また、精神症状や認知機能低下に対して作業療法も有効です。

しかし、ハンチントン病ではうつ症状や気力低下により、ご本人がリハビリテーションになかなかやる気を示さないことも少なくありません。少しでも本人の 興味を引くようなことがあれば、それを糸口にリハビリテーションをしてみましょう。抑うつや妄想などがある場合は、まず薬物療法も含めた適切な治療をし、精神科医とよく相談しながらリハビリテーションを組み入れましょう。


この項目に関する協力者
国立精神神経医療研究センター病院精神科 有馬邦正、外科 三山健司、神経内科 山本敏之、リハビリテーション科 小林庸子、歯科 福本裕、患者会のみなさん、国立病院機構相模原病院リハビリテーション科言語聴覚士 池山順子