遺伝子治療とは

細胞はすべての生物の基本的な構成単位であり、人体は数十兆個(60兆とも37兆ともいわれています)の細胞から構成されています。 人の細胞の中には、筋肉、骨、血液を作る特定のタンパク質や酵素の生産に関する情報を提供する何千もの遺伝子があり、消化、エネルギー生成、成長など、人体の機能のほとんどをサポートしています。

遺伝子治療は遺伝子の発現を修正または操作して、細胞の生物学的特性を変更することを目的としています。遺伝子治療等の定義として、厚生労働省の指針によると、疾病の治療または予防を目的とした下記のいずれかに該当する行為を指しています
1. 遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること
2. 特定の塩基配列を標的として人の遺伝子を改変すること
3. 遺伝子を改変した細胞を人の体内に投与すること

遺伝子を人の細胞に導入する方法はいくつかあります。現在主流な方法はウイルスであり、一部のウイルスが遺伝物質を人間の細胞に導入する能力をもっていることを利用します。正常な細胞を化学反応でウイルス内に導入した後、人の細胞に感染させると、DNAをその細胞の核に入れることができます(遺伝子導入/トランスダクションと呼ばれます)。ウイルスを利用した場合のリスクは感染症と同様にウイルスに対する反応が起こる可能性があることです。また、一定期間経過した後に新しい正常なDNAが失われ、遺伝性疾患が再発することもリスクとなります。また、ウイルスに対する抗体が生成され、臓器移植後の拒絶反応に似た反応を起こす可能性があります(参考:メルクマニュアル)。

HD治療薬-核酸医薬と遺伝子治療薬

HDの原因遺伝子として、常染色体第4染色体短腕上にあるハンチンチン(HTT)遺伝子が特定されています。この遺伝子の第1エクソン(mRNAに転写される部分の1番目)には、CAGの繰り返し配列(リピート)が存在し、正常の場合ではリピート数が35以下ですが、患者では36以上になっています。CAG配列はグルタミンに翻訳されるためポリグルタミン病(polyQ disease)あるいはCAGリピート病と呼ばれます(参考:脳科学辞典)。

HDではハンチンチンタンパク質の蓄積がすることで症状が引き起こされるため、薬剤開発の目的はハンチンチンタンパクの生成をなくす、または低下させることです。ハンチンチンタンパク質の生成を下げることを目的として、いくつかのアプローチが開発されています。 そのうちの一つがアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)です。ここでは、ASOを使った核酸医薬品であるRO7234292(RG6042)の臨床試験(フェーズⅢ)、また遺伝子治療薬AMT-130の臨床試験(フェーズⅠ/Ⅱ)について公開されている情報をもとに目的や試験内容などをご紹介します。