DNAからタンパク質が合成される流れ

タンパク質の合成は、〔DNA〕→〔RNA〕→〔タンパク質〕という情報伝達は、各々「転写」と「翻訳」というRNAの働きによって行われます。 これらの情報伝達の一方的な流れは、“セントラルドグマ”(生物学の中心原理)と言われています。ここでRNAのうち主なものとその役割は以下のとおりです

mRNA:DNAの遺伝情報を写し取り、リボソームでタンパク質の合成する
rRNA:リボソームを構成するRNA
tRNA:アミノ酸の運搬する

〔転写〕とはDNAの遺伝情報をRNAに写し取ることを意味し、
〔翻訳〕とはRNA(mRNA)が写し取った遺伝情報をもとにアミノ酸を配置し、タンパク質を合成することを意味します。

〔転写〕ではまず鋳型となるDNAの二重螺旋構造をほどき、一方のDNA鎖を鋳型(アンチセンス鎖と呼びます)として相補的な塩基を取り込みます。その際、DNAのアデニン(A)に対してチミン(T)ではなく、RNAではウラシル(U)と結合します。なお、チミン(T)にはDNAと同じようにアデニン(A)が相補的に結合します。

DNAのヌクレオチドの配列と相補的に結合するように並んだRNAのヌクレオチド同士が連結してヌクレオチド鎖になり、1本鎖のRNAとなります。DNAの塩基配列を転写したRNAがmRNAです。転写はDNAがある細胞内の核の中で行われます。

タンパク質の合成過程における「翻訳」とは、RNA(mRNA)が写し取った遺伝情報をもとにアミノ酸を配置し、タンパク質を作ることを言います。タンパク質はアミノ酸が連なってできていることと、アミノ酸の配列によって、どの種類のタンパク質になるかが決まります。なお、〔転写〕は核の中で行われますが、転写が終わったmRNAは、核膜孔を通って細胞質の中へと出ていきます。

遺伝子治療薬と核酸医薬

DNAからタンパクが合成される流れの中で、遺伝子治療薬ならびに核酸医薬の位置づけをみると、つぎのようになります。

遺伝子治療等の定義について、疾病の治療または予防を目的とした下記のいずれかに該当する行為と定義されています。

1)遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること。
2)特定の塩基配列を標的として人の遺伝子を改変すること。
3)遺伝子を改変した細胞を人の体内に投与すること。

2)と3)はゲノム編集技術の進展より、外部から遺伝子を挿入せずに効率よく遺伝子を改変することができるようになったため、改正されました。

遺伝子治療薬は、遺伝子(DNA)からタンパク質が作られる流れの中で、最上流の段階での効果を期待します。遺伝子治療が最近脚光を浴びている理由は、治療遺伝子(遺伝子治療薬)を患部の細胞に直接伝達させるベクター技術が進歩したためです。遺伝子治療薬は生物の働きを活用し製造します。

核酸医薬とは、DNAやRNAなどの「核酸」を基本骨格とした医薬品であり、タンパク質の発現をとおしてではなく、核酸が直接ターゲットに作用します。核酸医薬には、メッセンジャーRNA(mRNA)に結合してタンパク質の翻訳(合成)を阻害する「アンチセンス」、mRNAを破壊することで、配列特異的に遺伝子の発現を抑制するsiRNA(small interring RNA)などがあります。 核酸医薬は工業的に化学合成でつくることができます。(参考:「なぜ、いま核酸医薬なのか」実験医学2019年1月号Vo.37 No.1)

遺伝子治療薬と核酸医薬の特徴

特徴をまとめると下記のようになります。

遺伝子治療薬
・数千塩基以上の天然核酸で構成され,遺伝子発現を介して作用し,治療効果を出す
・細胞や生体への遺伝子導入はウィルスベクターなどで行う
・遺伝子治療は、遺伝子からタンパク質に至る一連の流れの中で最上位にて作用
・新しい治療方法であるため、リスク評価が不十分との指摘あり

核酸医薬
・核酸が十〜数十塩基連結したオリゴ核酸で構成され,遺伝子発現を介さず直接生体に作用
・アンチセンス、siRNAに代表される核酸医薬は、遺伝性疾患や難治性疾患に対して新しい治療手段として注目
・修飾核酸技術、DDS技術(Drug Delivery System)の進展の進展より、安定性や有効性の課題が解消
・低分子医薬と同じように化学合成で製造可能