リハ・療育園での生活-ST(言語療法)の先生との絆-

療育園に入所してから、リハビリのため、PT(理学療法),OT(作業療法),ST(言語療法)の3つの訓練に通っていたKちゃん。どの訓練師の方にも感謝して止まないのだが、特に多くの面で助けて頂いたのが、STの先生だった。お話をすることが、だんだん難しくなってきたKちゃんのために、絵とその意味を表す簡単な言葉で構成された、「気持ちボード」を作って頂いたおかげで、Kちゃんとのコミュニケーションをとることができたのである。

どのようにするのかと言うと、指が動かせていた時は、指でその時の気持ちを表している絵を指して貰う。いよいよ身体が動かせなくなってきた時は、目で絵を見つめて貰い、感情を読み取るという優れものなのだ。今回もこの気持ちボードが大活躍してくれた。私の「失神事件」に対するKちゃんの気持ちを、STの先生にせがんで、なんとか聞きだして貰う事に成功。それはあの朝日新聞、TBSの「報道特集」のネタにもなった感動の内容だった。

STの先生が、「お母さんが、Kちゃんに会いに来たいって言ってるよ。よかったね~。」と言うと、ひたすら「ダメ!」を指差すKちゃん。何度聞いても、Kちゃんの答えは「ダメ!」理由を聞いて貰ったところ、Kちゃんは私の体が完全に良くなるまでは、来ないでほしいとの事だった。お母さんが病気だったことを、気がつかなかった自分を責めているらしく、ボクがお母さんを病気にさせてしまったんだと、言い続けていたらしい。その後、「気持ちボード」で、何度も、「心配」と「お母さん」の絵を繰り返し指しては、「お母さん」と「大好き♪」を繰り返したそうだ。

自分の体の事よりも、常に私の体を気遣っていたKちゃんだったので、誰よりも私がこうなってしまった事を、自分のせいだと思い込んでしまっていたのだった。そのあと、「ボク」と「頑張る!」を繰り返し指して、私が完全に良くなるまで病院で頑張る!と言ったそうだ。これは、Kちゃんの誤解を解かねばならない!と思った私は、Kちゃんのせいなんかじゃない!という事を伝えたくて、何とかKちゃんに会えないものかと、再びSTの先生の力を借りて、Kちゃんに聞いて貰った。会いに行くのは「ダメ!」、電話も「ダメ!」、頑なに拒まれて、じゃ、手紙は?の問いに、やっと「いいよ。」の返事を貰い、即行手紙をメールで送り、Kちゃんから面会許可が下りるのを、ひたすら待った。そして次の日、看護師さんから待望の電話がきて、「お母さん、Kちゃんが会いに来てもいいって言ってくれましたよ!」との言葉に「やった~!」と握りこぶしを作って面会に行けるようになったのである。

あれからもお世話になり続けているSTの先生は、私たち親子にとってかけがえのない存在だ。現在も忙しい中、時々Kちゃんのお部屋を覗いては、声をかけていってくれる暖かい先生である

リハ・療育園での生活-吸引挫折事件(1)-

休養がとれたおかげで、私の体力も徐々に回復し、いつも通りにKちゃんを帰宅させることが出来るようになったのだが、喜んだのもつかの間、新たな問題が出てきてしまった。それは私の吸引恐怖症。この時期、痰のからみが一層ひどくなってきたKちゃんは、数分置きに吸引していた。当然、お家では私が吸引していたのだが、いつもおっかなびっくり。それは、浅い吸引は出来るが、深い吸引が出来ないということ。喉の奥でゴロゴロいう痰は、深くカテーテルを入れないと取れないため、ものすごく苦しいのだ。「オエッ~!!」と吐きそうな声を出して苦しむKちゃんの顔が、どーしても見れない。だもんだから、ちょっとでも苦しい顔をされると、カテーテルを抜いてしまうのだ。「そこで頑張れば、Kちゃんが楽になるんですよ。」と看護師さんに指導され、頭では解っているのだが、気持ちがどーしてもついて行かない。

ついに自宅で吸引中、どうにもならない状態になり、慌ててリハに戻った。お家にお泊りできないことで、Kちゃんはギャーギャー泣いてしまうため、痰がよけいに絡む。半ばパニックになりながら、病棟へ駆けこみ、看護師さんに吸引して貰ったのだが、ホッとすると同時に自己嫌悪に陥ってしまった。

吸引が怖い・・・!

もうこの恐怖に取りつかれて、どーしようもない状態だった。お家へ帰りたい~と大泣きするKちゃんに大変申し訳なく、また吸引出来ない自分を、認めなくてはならないことが悔しくて、ついに、Kちゃんの前で涙をボロボロ流してしまった。すると、それまで泣いていたKちゃんが、ピタッと泣き止み、私の顔をじ~~っと見つめたのである。この瞬間から、Kちゃんは二度と私の前では泣かなくなってしまった。それどころか、笑顔も見せなくなってしまったのだ。Kちゃんは、とっても賢い子なので、自分が泣けば私が悲しんでしまう、ということを悟り、それから感情を表に出さなくなってしまったのだった・・・。

リハ・療育園での生活-吸引挫折事件(2)-

その後も私の吸引恐怖症は続いた。私が怖気づいている間も、Kちゃんの病気はドンドン進んでいく。当時、経鼻チューブで液体栄養を摂っていたのだが、筋緊張がもの凄く、腹圧のため経鼻チューブごと嘔吐してしまっていたのだ。経鼻チューブが痰をよけい増やすこともわかっていたので、早急に胃ろうにしなければと考え、隣のこども病院へ受診に行った。待合室で待っている間、「吸引が出来ない私は、この先ず~っと看護師さんにお願いすることになるんだろうか・・」とぼんやり考え込んでいた。そんな時、Kちゃんがまたゼロゼロ始まってしまった。

吸引をして貰おうと処置室へ行ったら、看護師さんに何気なく、「お母さん吸引出来ないの?じゃあ今、お家へ連れて帰ってないの?」と一番のウィークポイントを突かれて、言葉につまってしまった。顔がひきつったまま、こども病院を後にし、またまたドーンと落ち込む自分。そんなに触れてほしくないんだったら、吸引を覚えればいいのに。ど~して自分は吸引が出来ないんだろう・・??ど~してKちゃんの顔を見ることが出来ないんだろう・・??

悩んだあげく、「養護学校のお母さんたちは、どうやって吸引を覚えたんだろう?」と思い、数人に電話で聞きまくってみた。みんな吸引の方がマーゲンより簡単♪と言い、マーゲンが出来るのに吸引が出来ない私を不思議がっていた。「苦しむKちゃんのお顔が、どーしても見れないんだ。どうしたら見ることが出来るのかな・・?」と相談したら、「私の場合はさ~、お家にど~しても連れて帰りたかったからね~♪」と聞いて、私の中で熱いものが込み上げてきた。そうだ!私もそうだったじゃないか!どのお母さんも、それが原動力となって頑張っているんだ。

吸引が出来なくて断念してから、もうKちゃんといっしょに寝ることも出来ないんだ・・と思うと、Kちゃんのベッドを見るのが辛くて、お布団干すのが辛くて、家中に飾ってあるKちゃんの写真を見れば、何度もいっしょに出掛けたディズニーランドも、もう行けないと思い、涙があふれて見れなくなっていた・・。ほんとに このままでいいのか・・?お家へ連れて帰って来れなくていいのか?何処へも遊びに連れて行けなくていいのか?

あれもこれも突き詰めて考えて行けば、吸引さえ覚えれば全て諦めることはないんだ!と思い直したのだ。養護のお母さんたちに出来て、私に出来ないわけがない!子どもを思う気持ちは、負けないくらい持っているのだ。それに続いて、更に私にやる気を起こさせた出来事があった。STの先生に、 「Kちゃんが病室で聞けるように、好きな音楽があったら,Kちゃんの部屋のベッドサイドに置いておいたらどうかな~なんて思うのですが。」と言われた時、病棟の子どもたちが、それぞれラジカセを側に置いている事を、思い出した。Kちゃんの好きな曲・・それはオーレンジャーの曲。でも、それを考えた時、私は頭がカーッと熱くなるのがわかった。駄目だ!あの曲は車の中で聴く曲だ。Kちゃんをお家へ連れて帰っていた時、いつもいつも流して、テープが伸びてしまうほどいっしょに聞いて、Kちゃんといっしょに、踊って歌ってきた曲なんだから。

およそ1ヶ月の間、Kちゃんをお家に連れて帰れなくて、それがどんなに辛いことだったか、身にしみてわかった。 Kちゃんをお家へ連れて帰りたい!後日、再びこども病院へ受診した時、前と同じように、Kちゃんがゼロゼロ言い出した。今ならKちゃんのお顔が見れるかもしれないと思った私は、今やらないでいつやるんだ? きっかけがほしい、と。その気持ちのまま処置室に入り、看護師さんに、「吸引やらせて下さい! 一から教えて下さい!」とお願いしたら、驚かれてしまった。そりゃ~そうだろう。「ついこの間まであんなに怖がっていたのに、短期間で凄い心境の変化ですねえ!」と言われたが、この勢いを失いたくないため、「早くしないと、また怖気づいてしまいそうなので、今、教わりたいんです。」と言い、その後丁寧に指導して貰った。

「Kちゃん、お母しゃん頑張るから吸引させてね♪」、と言いながら、看護師さんに喉を押して貰い咳を出させ、ついに苦しそうなお顔をしたKちゃんを、初めて凝視し、吸引することが出来たのだ。「お母さん凄い!やったね!痰とれたじゃない!」と言われて、カテーテルに入った大きな痰を見て大感激!

「み・・見れた!Kちゃんのお顔が見れました。。」と言いながら、ボロボロ泣いてしまった私につられて、看護師さんたちも、もらい泣き・・。「吸引機を買うのが夢だったんです。もっと上手に吸引出来るようになったら、買おうと思ってるんですが。」と話したら、「今、買っちゃうのよ。そうすれば自分の吸引機で練習出来るから、お家でいざ使う時も使い慣れてるじゃない?」と言われて、「な~んて賢いんだ!その通りだ!すぐ買います。」と、その後リハに戻って、一気に全ての出来事を話したもんだから、リハ看護師さんたちは目がテンになっていた。(^_^;) 次の日、さっそく業者に電話をし、吸引機を購入。その日から、あれほど怖かった吸引が、ウソのように上手になった要は、きっかけと度胸なのかもしれない。