ハンチントン病(HD)の新しい治療薬に関する臨床試験(治験を含む)は欧米を中心に進められており、毎年新たな報告が発表されています。ここでは、2025年2月に米国カリフォルニア州で開催された「第20回ハンチントン病治療薬カンファレンス(CHDI主催)」で紹介された内容と、その後の追加情報を簡潔にまとめます。
内容
1.はじめに
2.HD治療薬開発の進捗状況
3.概要説明(臨床試験の結果)
4.補足情報:モダリティ(治療技術)など

1.はじめに
臨床試験の状況は日々変化しているため、本稿が常に最新の情報を反映しているとは限りません。信頼性が高いと考えられる資料に基づいて作成していますが、情報の正確性や完全性を保証できるものではありません。また、現時点では日本国内で臨床試験は実施されていません。
これらの薬剤開発は依然として臨床試験の段階にあり、治療法として確立されるには、なお時間が必要です。ただし、複数の製薬企業や研究チームが多様なアプローチで開発を進めており、開発は継続しています。私たち患者会としても今後の動向を注視し、分かりやすい形で情報をお伝えしていきます。(記:JHDNホームページ編集会議メンバー)
<参考にした情報源>
・Huntington’s Disease Therapeutics Conference 2025 – Day 1
・Excitement and Anticipation as PTC’s Huntington’s Disease Drug Clears a Major Hurdle to Sprint Home
・PTC518 PIVOT-HD Study Achieves Primary Endpoint
・uniQure Provides Regulatory Update on AMT-130 for Huntington’s Disease「臨床試験」の内容は、こちらを参照してください。
https://www.jhdn.org/latest-study/clinical-trial/
2.HD治療薬開発の進捗状況
2025年2月時点で臨床試験が行われているHD治療薬の進捗状況は下表の通り

3.概要説明(臨床試験の結果)
1)ロシュ社(tominersen)
・新しい臨床試験(GENERATION-HD2)は計画した被験者登録を全数完了した。
臨床試験の状況や結果
・ GENERATION-HD2は15カ国、70施設で2026年後半までに試験完了予定。
*GENERATION-HD1は2022年に安全性に問題があり中止。
・ 今後の臨床試験の設定るため、HDレギュラトリーサイエンス・コンソーシアムと協力し、これまでの研究から得られたデータ、自然史データ(*)、GENERATION-HD1試験から得られた薬剤を投与していない人のデータを共有している。
(*) 自然史データとは、主に観察研究に基づいており、疾患の発生や進行の過程を追跡するデータ)
2)ウェーブ・ライフ・サイエンス社(WVE-003)
・異常なハンチンチンタンパク(HTT)のみを産生しないように設計された薬。
・脳の萎縮(縮小)の進行を抑える可能性が報告されている。
臨床試験の状況や結果
・薬剤を服用している人の脳の萎縮を遅らせることを示した(将来の臨床試験において、この指標を採用することを検討)
ただし、本指標のみでは薬剤の治療効果を判断できないため、他のバイオマーカーも分析した上で慎重に判断する必要がある。
・2025年末までに第2相/第3相試験の申請をする。
3)PTCセラピューティックス社(votoplam)
・飲み薬として開発中。
・12か月間の投与で、病気の進行に関わる血液指標(NfL)の変化が抑えられたと報告された。
・その後の追加発表では、異常なたんぱく質の減少と安全性が確認され、大きな副作用は見られていない。
・一部の参加者では、生活機能や認知機能に関わる検査で改善の傾向が報告されている。
臨床試験の状況や結果
・安全性:これまでのところ、重篤な有害事象(SAE)は発生していない。
・ハンチンチンタンパク(HTT)の低下:ステージ2およびステージ3のHD患者において、12週時点では薬剤の用量依存的に血中のHTT濃度が低下することを確認した。
・臨床スコア:ステージ2のHD患者群では、12ヶ月時点で複合統一ハンチントン病評価尺度(cUHDRS)が薬剤の用量依存的に改善した。一方、ステージ3のHD患者群では用量依存的な改善効果は確認されなかった。病期によって薬剤の臨床効果が異なる可能性を示唆した。
・昨年データが共有された患者の24ヵ月間の治療データとENROLL-HDレジストリの自然歴コホートの比較:cUHDRSなどの臨床スコアの(薬剤用量依存的な)改善およびバイオマーカーである血中NfLの(薬剤用量依存的な)低下が確認された。
ステージとは
・ステージについて、ハンチントン病統合ステージ分類(HD-ISS)は4段階で進行を評価するが、観察研究では必要なデータが欠如して分類が困難な場合がある。本研究では、機械学習を用いてステージを補完し、各ステージ内での進行度のサブグループを定義した。
・HD-ISS(ハンチントン病統合ステージ分類)の各ステージは、以下のように定義されている。
ステージ0:CAGリピート数が異常(通常は36回以上)で、症状や脳の変化はまだ現れていない段階。遺伝的に発症リスクがある段階。
ステージ1:脳内の線条体(striatum)に萎縮などの構造的変化が見られるが、運動や認知機能に明確な症状はない。
ステージ2:運動障害(不随意運動など)や認知機能の低下が現れ、ハンチントン病の明確な症状が認められる。
ステージ3:日常生活に支障をきたすほどの機能低下が進行し、自立した生活が難しくなる段階。
4)ユニキュア社(AMT-130)
・脳外科手術で薬を投与する遺伝子治療。
・米国食品医薬品局(FDA)から先進的な再生医療治療法(RMAT)の指定を取得した。
・現在は、血液や機能検査の結果を用いて効果と安全性を慎重に確認している段階。
臨床試験の状況や結果
・中間データ(24か月時点)では、対照群と比較してcUHDRスコアの低下が抑制されていることから疾患進行の鈍化を確認、また、バイオマーカーである脳脊髄液中のNfL低下も確認。
・自然史データを使って、薬がどの程度効いているのかを調べようと計画している。つまり、同じ年齢などで薬を投与されなかったHD患者の平均値と比較する。これは、製薬企業が通常用いるプラセボ対照とは少し異なる。
・薬がどの程度効いているかの指標としてcUHDRSを使用すること、またNfLレベルをAMT-130が作用していることの支持的証拠とみなすことにFDAと合意した。
・BLAを提出した。(26年第1四半期に臨床試験を予定している)
受理されれば、追加の臨床試験なしで上市が承認されると思われる
(*BLA:Biologics License Application 米国食品医薬品局(FDA)に提出する正式な申請書で、生物学的製剤の米国での販売許可を求めるもの。)
4.補足情報
4.1 モダリティ(治療技術)
votoplam、tominersenとおよびWVE-003はいずれともHTT(ハンチンチン)遺伝子の発現抑制薬(HTT-lowering therapies)ですが、同じモダリティ(治療技術)ではありません。詳細は下表を参考にしてください。

SNPはSingle Nucleotide Polymorphism(1塩基多型)を意味する。
4.2 重要な知見
PTCの試験結果から以下のように重要な知見が示唆されています。
正常タンパク質と変異タンパク質の両方を非選択的に低下させても、かなり安全であると思われる。これはtominersen(トミネルセン)やAMT-130のような、開発中あるいは臨床中のいわゆる 「総ハンチンチンタンパク 」低下アプローチにとって朗報です。