◇ 2020年度オンライン総会の報告
◇ 会員便り ♧ みんなの近況
◇ AOJUNさんからのお便り
◇ 研究・治験に関する情報
◇ 着床前診断に関する情報

ごあいさつ 加瀬 利枝(あにどる)

みなさん、こんにちは。昨年は新型コロナウイルスで始まり、新型コロナウイルスで終わり、今年も新型コロナウイルスで始まりましたね。みなさんよく耐えてくださっています。大変ですね。感染してはいけない、感染させてはいけない、ものすごいストレスの毎日です。
 緊張の日々、いかがお過ごしでしょうか?苦しくてつぶれそうな人はいますか?人と会いづらい環境ですが、お話しをしたいという人はいますか?事務局メールを使ってください。
そしてネット環境のある人はオンラインでお話しできるように事務局でも考えてみたいと思いますので要望がありましたらお知らせくださいね。マスク・手洗い・うがい・3密をさける予防をしていればお散歩くらいは大丈夫ですよ。外の空気に触れることも太陽のひかりを浴びることも大切ですから出来る限り試してみてください。
 コロナ禍ですのでイベントも少なくプチ・ニューズレターの内容も少ないです。皆さんの近況を公開することで皆さんの力となります。どんどんお寄せ下さいませ。
お待ちしております。

※お知らせ
引き続き、新型コロナウイルスの緊急事態宣言下にありますため、会報の発行が遅れるなど みなさまにはご迷惑をおかけしております。 最新の情報は、ホームページをご覧ください。
ホームページURL ★ https://jhdn.org

2020年度オンライン総会の報告 マキ

 

当会初めてのオンライン総会を2020年10月4日に開催しました。

総会の参加者は講師の武藤香織先生を含めて24名(うち2名が初参加)でした。オンライン総会はZOOMアプリを使って、自宅や職場のパソコンやスマートフォンから事前に知らされたインターネット上の会議室に集まります。介護や遠方のために総会会場まで今まで来られなかった方でも参加しやすく、東京や大阪だけでなく岡山や宮崎など色々な地域や、移動中の車の助手席からの参加者もいて驚きました!また自分の画面に参加者の顔が映り、発言もできるので、顔や声を相互に確認できました。

まず、総会では事務局から昨年度の決算報告・活動報告および今年度の予算案・活動計画の説明があり、承認されました。次に講演会は「新型コロナウイルス感染症対策の現状」をテーマに武藤先生が、厚労省の対策専門家会議のメンバーとして2月から6月の4か月間、不眠不休で私たちに新しい知見や生活様式を提言し続けてくださったご苦労などをお話くださいました。

後半のグループワークでは、4・5名のグループ4つに分かれ、コロナ禍での近況を伝えあいました。面会に行けないことや、大事な親族を亡くされたことなど、会員同士でないと分かり合えないことが話せる貴重な場だったと思います。

オンライン総会に参加できなかった会員の皆様にも総会を知っていただくために、2月末まで会員限定で動画をアップしました。
 最後になりましたが、オンライン会議の準備や動画編集に協力してくださったイゼコさんにも深くお礼申し上げます。

会員だより   みんなの近況

◆ Aさん

最近、家内も精神的に落ち着き、家族も同様に落ち着いています。
しかし、発語も少なく、目力も弱くなってきたので、家内を支えて頂いているケアマネさん、往診の先生、PT&STさん、看護師さん、ヘルパーさん、福祉用具の担当者全員でカンファレンスを行い、リフト&リクライニング車椅子を導入したりと生活に刺激を与えるようにすると、大分、反応も良くなりました。様々な人に支えて頂き、家内も家族も幸せです(^-^)

コメント:たくさんの職種の皆さんに関わっていただき、安定した生活をお過ごしですね。理想的なかかわりではないでしょうか。皆さんの療養生活のヒントにもなります。このまま落ち着いた療養生活が続きますように。

◆ Bさん

不随意運動が顕著になってから数年経過し、症状は徐々に進行していますが、新型コロナウイルスの影響でいろいろ支障が生じています。高齢の私一人で娘の面倒を見ていますが、それがいつ出来なくなるか不安を抱えての毎日です。総会の時にでも皆様と色々情報交換が出来れば有難いと思います。

コメント:コロナ禍で患者さんをかかえる環境は緊張の連続と思います。できるだけ福祉支援を利用して、Bさん ご自身のお身体も労わってあげてくださいね

◆ Cさん

年明けから何やら世間が騒がしい様ですが、以前から『感染症を持ち込まない、絶対。』を実践しているので、今まで以上に備える事は出来ないし、物品不足を警戒した位で大きな変化はありません。(今からはどうなるか分かりませんけど)
強いて挙げれば、医大や県、市立病院の外来が停止した時に相談出来る開業総合医を探したり、自治体の支援の中から在宅介護が取り残され無い様にご相談をしてみたり。
日課の散歩も出来なくなったり、気分転換の買い物も一緒に行けないし、数年ぶりに妻を囲んで行う予定だった同級生とのBBQは中止になるし、従兄弟と親類が感染するし。
まぁ、大した影響は何もございません。
改めて皆さんに元気なご挨拶が出来る日を待ち望みながら、妻に添い寝をして過ごしたいと思います。皆さんも、どうぞお気を付けてください。

コメント:コロナ禍で生活にも影響が大きい毎日です。海外ではワクチンの接種が始まっていますので、日本でも数か月後には承認されて実用化されるのではないかと思います。それまで予防に努めましょうね

◆ Dさん

大きな変化なく過ごしています。が、妻の状態は少しずつですが衰えが見られ、日常生活介助の作戦変更も模索中。こうなったらああせなあかんなあ、などと前職(支援学校教員)の経験を総動員(と言ってもあまり蓄積なし)しながらも、取り留めなく。
なお、勉強会、総会とも参加にしましたが、当日の状況によっては不参加になるかもしれません。準備だけはしたいと思っています。

コメント:患者さんの症状は進行性なので逃れられない状況かと存じます。ITさんのご経験はご自身で思うより活躍しているかもしれません。介助の作戦変更の模索が、良い療養生活となると思います

◆ Eさん(ターちゃん)

ボランティアや、何かアルバイトで出来ることもあるかと思うから、「難病の相談センターが二階にあるから、相談してみたら」と(病院の人から)。ターちゃんは、俄然、希望が湧き、そんな風に妻の私も思っても見なかったことなので、実際あるかわかりませんが、嬉しいお話でした。
次回、来院した時に行こうと思います。
動きに出るのが、軽いねと先生も言ってくださり、本人が性格が変わった方が大きいと言ってるのが、なんとも面白く、この日は、とてもよい診察日となりました。これからも、ゆっくりと穏やかに、進行もゆっくりとで、行けたらよいなと思いました。

コメント:そうですね、ターちゃんはご自身で人のために何かできないかというお気持ちが強くて心強いです。発送作業も積極的にお手伝い頂きとてもありがたく思います。そのようなターちゃんのお気持ちを大切に、大切にお守りしたいです。

◆ Fさん

遺伝子検査をしたいのですが、母や義母から止められています。父の遺伝子検査もしていない状態なので、病院の方にもまずは家族の了解を得て父の遺伝子検査をしてからと言われました。今年は進展があるといいと思います。

コメント遺伝子検査というのは、ご自身がハンチントン病の遺伝子を持っているかどうかの検査(発症前遺伝学的検査)のことですね。Fさんが検査を受けて陽性だった場合には、検査を受けていないお父様も陽性であることが自動的に判明してしまうため、Fさんの検査についても難しい判断に迫られているのだと感じました。ただ、検査を受けること自体がゴールではなく、検査を受けて陽性だったときの備えが充実した状態で検査を受けることが大切です。心理面や経済面、療養環境についてもご家族と話し合ってくださいね。待機時間が、Fさんの支援体制の充実につながることを願っています。

◆ Gさん

家族が増えました。
2年前に理解ある女性とご家族に巡り合い、長男が結婚しました。そして今年長女が誕生しました。前向きに明るく過ごしています。JHDNの会にもタイミングをみて参加したいと言っています
また、現在ハンチントン病治療薬の治験に参加頂いている皆さんに心より感謝いたします。安全性、有効性が実証されて、私たちの元に治療薬が届きますよう願っています。

コメント:ご家族が増えたのですね、おめでとうございます。前向きに明るくお過ごしとのこと嬉しく思います。いつでもJHDNを使ってくださいね

このコーナーへ掲載するための、みなさまからの近況報告、コメントをお待ちしております!ご感想・ご意見などもいただけるとうれしいです。  
事務局メールでお気軽にご連絡ください!
お待ちしております♪

AOJUNさんからの手記

 2020年10月4日に行われたリモート総会中、15年間ご相談をさせて頂いていた妻が2020年9月に他界したとのご報告をさせて頂きました。
 20代半ばの結婚を意識し始めた同棲中、妻が発症した事でハンチントン病と言う病名に向き合う事になりました。それをきっかけにこの会の存在を知り、私たちの前を歩いている方々から多くの知識や経験談を頂きました。その時の温かいご対応が無ければ、経過観察の経験が少ない医師や正確では無い憶測が混じったネット情報に流されて、妻に付き添う事を諦めていたかも知れません。そして、早い段階から経験談に触れる事で、散歩などの予防リハビリやいずれ必要になるであろう用具の選定を先回りして行う事が出来たので、他の方と比較すると行政手続きなどスムーズに出来たのでは無いかと思います。また、施設入所や胃ろう・PEG、気管孔などの妻自身、そして付き添う私も覚悟が必要になる事も、事態が切迫する前に2人で話が出来ていた事は凄く大きかったと思います。
 私たちにとってハンチントン病は絆でした。在宅介護、自宅介護を続ける私たちの生活を見て、人は「大変だね」と声を掛けてくれていました。特段反論はしませんが、私自身は人が言ってくれるほど大変だと感じていませんでした。それは、妻を女性として愛していたし、妻と接する時間を苦に感じて居なかったからです。入籍前、妻に「人と違う私を選ぶなんて変わっている」と言われた事を覚えています。その時に私が感じた事は、病気ぐらいで見捨てると思われるほど信用されていないのだと言う寂しさでした。妻に、そんな言葉を吐かせてしまうぐらいにしか私の気持ちが伝わっていないのだと頑張れる目標にもなりました。 妻は、私に残りの人生を預けてくれました。なので、私のこれからの人生を妻に渡しました。なので、とても幸せでした。そして、妻を見送った今、あれ以上の事は出来ないと思えるぐらい、心の底から目一杯の付き添いをさせて貰いました。妻が夢枕に立ち、「もっとこうして欲しかったなぁ」とダメ出しを言われたら、生臭さが大嫌いだった青魚で鼻先をひっぱたいてやりたいぐらい付き添わせて貰いました。
 病状が進行する妻を見続ける事は苦しかったです。去年出来ていた事が今年は出来ない。そうすると来年はどうなのだろう。そんな事ばかり考えていました。と同時に、どうしたら去年出来た事を出来るのか考える事が楽しかったです。妻の為に時間を使える事が嬉しかったです。
 妻にすら私は変わっていると言われてしまいました。変わっているかも知れませんが、特別では無いと思います。特に、会に携わって居られる方々のお話しを聞いているとそう思います。
 私は、妻に出会えて本当に良かったです。


                                                

CAGリピートに関連する低分子化合物の発見
(大阪大学)

 2020年3月に発行したプチ・ニューズレター第43号でもちょっとだけご紹介した大阪大学の研究成果について、1年遅れになってしまいましたが、もう少し詳しくご紹介します。
 
 HDでは、ハンチンチンというたんぱく質をつくることに責任をもった遺伝子で、CAGCAG…という繰り返し配列(CAGリピート)が長くなることが原因で異常なハンチンチンがつくられることが病気の原因です。大阪大学大学院医学系研究科の中森雅之先生、望月秀樹先生、大阪大学産業科学研究所の中谷和彦先生らの研究グループは、このCAGリピートに着目して、これを短縮する治療法の開発を検討してこられました。そして、昨年2月にNature Genetics誌に発表された論文では、中谷先生が開発した低分子化合物(分子量の少ない化合物)であるNA(ナフチリジン–アザキノロン)が、CAGリピートを短縮することが明らかになりました。この化合物は、CAGリピートが形成する特徴的なDNA構造に結合するのだそうです。


                                                

そして、HDの動物モデルであるR6/2マウスの脳内にある線条体へ直接NAを反復投与すると、CAGリピートが短縮し、異常なたんぱく質の形成が抑制される効果も確認されています。

もしCAGリピートを短縮させることができれば、遺伝子治療の可能性を検討できるほか、同じようにCAGリピートを原因とする他の神経難病への応用も期待できるとのことでした。今回は動物モデルでの実験でしたが、人でも効果が確認できるといいですね。

Nakamori, M., Panigrahi, G.B., Lanni, S. et al. A slipped-CAG DNA-binding small molecule induces trinucleotide-repeat contractions in vivo. Nat Genet 52, 146–159 (2020). https://doi.org/10.1038/s41588-019-0575-8


                                                

GENERATION HD1試験に関するお知らせ

 2019年8月に発行したプチ・ニューズレター第42号の「号外」として、ロシュ社が開発中の国際共同治験に日本も参加することになった、というお知らせをしました。これは、中枢神経系に含まれるハンチントン病の原因となる異常なたんぱく質のレベルを下げることが期待される薬剤 tominersen (RG6042) の有効性と安全性を評価する国際共同治験で、GENERATION HD1試験と呼ばれています。日本では中外製薬株式会社が開発を手掛けており、日本の患者さんも治験に参加して下さっています。

 およそ25カ月間の予定で行われてきたGENERATION HD1試験には、世界18カ国から791人の患者さんが登録されており、参加した患者さんは、tominersen 120 mgを2カ月ごと、または4カ月ごとに髄腔内投与する群、プラセボ投与群にそれぞれ無作為に割り付けられています。つまり、薬剤の有効性をできるだけ客観的に評価するため、投与する医師にも患者さんにも、投与している薬剤がtominersenなのか、それとも有効成分の入っていないもの(プラセボ)なのかがわからないように設計された治験です。プラセボ投与群を設ける治験は、薬剤に関する安全性で大きな問題がなく、多くの患者で有効性を確認し、製造販売の承認を得ることも視野に入れて実施されることが多く、国際的にも期待が高まっていました。

 しかし、2021年3月22日、ロシュ社は、この治験でのtominersen投与中止を決定したことを発表しました。

 治験を実施するときには、治験実施側とは別の独立した立場から、参加した患者さんの安全を守るためにデータを詳細に検討する専門家の委員会が設置されています(名称は様々で、日本では「安全性モニタリング委員会」や「データモニタリング委員会」などと呼ばれています)。この委員会には、治験で収集したデータを詳しく検証する権限が与えられています。今回の場合には、これまでに収集したデータを詳細に検証した「独立データモニタリング委員会」が、患者へのリスクとベネフィットを考慮した結果、ロシュ社にtominersen投与の中止を勧告し、ロシュ社はGENERATION HD1試験のほか、並行して実施されている別の試験(GEN-EXTEND試験)でも投与中止の決定をしたとのことです。ただし、tominersenに関する新たな安全上の問題が見つかったわけではないそうです。

今後、ロシュ社は、治験に参加した患者さんに、tominersenもプラセボも投与せず、経過観察を継続する予定とのことです。この治験のすべてのデータに基づく解析を実施した後、結果や今後の計画について、世界のハンチントン病の研究者や患者会とも共有するとのことでした。

ロシュ社でtominersen開発の責任者を務めているローレン・ボークさんは、3月27日付で、患者・家族に向けたメッセージ動画をYouTubeで配信しています。動画の冒頭で、ローレンさんは「GENERATION HD1試験では、tominersenを恒久的に (permanently) 投与しないという決定をした」ことを伝え、「誰にとっても辛い1週間であり、特にGENERATION HD1試験に参加した患者・家族の方々にとってこの知らせは困難なものであっただろうと思います」と沈痛な面持ちで述べています。そして、当事者にぜひ理解してほしいこととして、「投与中止の決定は、緊急に安全性を脅かす兆候があったわけではなく、患者にとってのリスクとベネフィットを総合的に判断した結果であること」と、「投与は中止するが治験は継続する。データから学ばなければならないことが沢山あり、この重要な治験に引き続き協力して下さる方々に心から感謝していること」だと述べています。そして、「試験に参加してくれた患者さんこそが本当のヒーローだ」と強調していました。

また、米国のハンチントン協会 (HDSA) では、3月25日に緊急のウェブセミナーを開催しました。ロシュ社が説明している内容に加えて、失望や悲しみを制御するための講義があり、後半はこの治験に詳しいHDSAのスタッフや医師らが視聴者からの質問に答えていました。

大変残念ですが、JHDNとコミュニケーションを取って下さっている中外製薬からは、今後とも情報共有して頂けるとのお申し出を頂いております。続報をお待ちください。

【参考資料】

  • ロシュ社プレスリリース. Roche provides update on tominersen programme in manifest Huntington’s disease(2021年3月22日)
  • 中外製薬株式会社プレスリリース. tominersenの顕性ハンチントン病に対するプログラムの最新情報について(2021年3月26日)
  • ロシュ社開発責任者からのメッセージ動画. A Message from Roche about the GENERATION-HD1 Trial News (2021年3月27日)
  • 米国ハンチントン病協会緊急ウェビナー動画. Huntington’s Disease Society of America. Research Webinar: GENERATION-HD1 Trial News (2021年3月26日)


                                                

HDBuzzの翻訳から(No.294)

脊髄性筋萎縮症の神経障害治療薬がハンチントン病患者に転用できる可能性”
筆:レイチェル・ハーディング博士 2020年10月22日 編集:レオラ・フォックス博士


                                                

着床前診断(PGT-M) 経験者の手記

2020年3月に発行したプチ・ニューズレター第43号でもご報告したように、2019年から日本産科婦人科学会において、着床前診断の対象を拡大する議論が進んでいます。これまでHDは、対象疾患の基準である「成人に達する以前に日常生活を著しく損なう状態が出現したり、生命の存続が危ぶまれる状況になる疾患」にはあてはまらないと考えられ、承認された事例はありませんでした。しかし、海外に受精卵を送って着床前診断を経験し、HDになる遺伝子を持たない受精卵を子宮に移植し、体外受精で子どもをもうけた方もいます.
                                             

 2021年に入り、学会の議論では、着床前診断の対象疾患を拡大し、その条件を「日常生活を著しく損なう状態が出現したり、生命の存続が危ぶまれる状況になる疾患で、現時点でそれを回避するために有効な予防法や治療法がないか、あるいは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要のある状態」に変更してはどうか?という意見が出ています。また、これまで実施施設からの申請による学会の許可が必要でしたが、今後は、今後は実施施設の倫理委員会が主体になって決定してはどうかという方向性も示されました。

 そのようななか、認定遺伝カウンセラーの方のご厚意で、HDで着床前診断を経験した方(JHDNの会員ではありません)が、日本産科婦人科学会に対してHDを対象にするよう要望された文章をご提供いただきました。この文章には、JHDNの会員への言及もあります。手記を書かれた方からは、「どなたに見せてもよい」とのご許可を頂いているとのことで、次のページから掲載いたします。

 おひとりおひとり、異なる価値観や考え方があります。JHDNでは、当事者の選び取ったすべての選択を尊重するという立場を取っています。この文章を参考にしながら、会員の皆様と一緒に考えていきたいです。  

 

日産婦人科学会への要望

ハンチントン病の着床前診断を経験して~患者の立場から

 私はハンチントン病の遺伝子を受け継いでいる。そして、着床前診断を行い、現在妻が妊娠しています。私は多くの方々の協力を得て今に至り、幸いにもこの選択が出来たことに大いに感謝しています。しかし、現時点で、私のとった選択は公に認められたものではありません。私と同じ境遇にいる人々のなかで、悩み、苦しみ、しかし着床前診断という選択肢を選ぶことが出来ない人がいるという今の状況に、私は憤りを感じ、また深い悲しみを抱いています。すべてのハンチントン病に悩まされている人々に、着床前診断という選択肢を与えたく、この度はこの文書を書かせていただきました。


 あくまで、一つの選択肢としての着床前診断ですが、私は『家族の心情』、『妊娠までの様々な負担』、そして『自身が前向きに生きていく為』の3つの理由から、その必要性を訴えます。
 本題に行く前に、まずは私が今に至るまでにどのようにしてハンチントン病と出会い向き合ってきたかを時系列に沿って述べさせていただきます。ハンチントン病の詳細な病症に関しては割愛させていただきます。

 ことの発端は数年前の私の父のきょうだいのハンチントン病発症です。父には2人の兄弟姉妹がいますが、そのひとりが発症し、はじめは体の不調を訴えるものでしたが、病院に行き発症が確認されました。父含め、今までハンチントン病という名前すら知らず、この時に初めて病名と遺伝性の病気であることを知りました。遺伝性であることから、父自身が受け継いでいる可能性が発覚し、父は1年近くの遺伝カウンセリングの末に遺伝子検査を行い、父も遺伝子を引き継いでいることがわかりました。

その結果、私を含め、父の子である私と私の兄弟姉妹3人にも遺伝の可能性が生じました。そこから、父と母との間で私達3人へ告知するべきか否かの長い話合いが始まりました。すぐに告知をしなかったのは、告知された者の中にはそのショックのあまりに精神を病む者やひどい場合には命を絶つ者もいるためです。しかし、時を経て、父の検査から1年以上過ぎた年の年末に私達にこの病気のことが告知され、父のきょうだいの発症から2年以上の時を経て私は病気のことを知りました。その後、私は数回の遺伝カウンセリングを経て、遺伝子検査を受け、ハンチントン病の遺伝子を受け継いでいることを知りました。その後、この病気のことを理解した上で、支えとなってくれるパートナーに出会い、お互いの両親とも話をし、入籍。その後、2018年半ばから2019年にかけて2回の採卵と1回の着床前診断、2回の胚移植を行いましたが、妊娠まで至りませんでした。更に3回の採卵と2回目の着床前診断、2回の胚移植を経て2019年11月に妊娠が確認でき、そして現在に至ります。今日に至るまで、決して簡単な道のりではありませんでした。この月日の中で、着床前診断が私達にどのような影響を与えてきたのかを3つの点からお話していきます。

 現状、日本においての遺伝性疾患における着床前診断の可否の審査は「生命予後が不良で成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が発生する、または生存が危ぶまれる疾患」に限られており、ハンチントン病はこれに該当しておらず、着床前診断は認められていません。私自身ハンチントン病のことを、両親から告げられるまで知りませんでしたので無理もないですが、ハンチントン病の遺伝子は男性から子どもに遺伝が引き継がれる場合、正しい表現ではありませんが、遺伝子が変異し発症のリスクが高まります。発症リスクが高まり、若年性ハンチントン病となって発症した際には進行速度も上がり若くして亡くなる確率も親の世代よりも上がります。この事実もあり、遺伝の可能性を払拭できないことで、私達『家族の心情』は大きく揺さぶられました。

その中でも、一番心を傷つけられたのは私の母です。私の父が遺伝子を引き継ぎ、私達子どもへの遺伝の可能性を知った時に、母は家族の中でも一番悩み、苦しみました。自分達が知らない間に、我が子へ将来病気になるかもしれない遺伝子を引き継がせてしまった。そのどうしようもない罪悪感と、本人たちへ告知することで彼らが命を自ら絶ってしまうのではないかという不安と恐怖。しかし、告知しなければ、本人たちが知らぬうちに次の世代へと引き継がせてしまい、自身と同じように悩み苦しんでしまうかもしれない。さらに孫の代になると発症の確率を高めることにもなる。どうすればいいのか母は答えが出せず、踏ん切りがつかずにいました。

一方で父は自身が遺伝子を受け継いでいるということからも、事態を受け止め、前進するために子どもたちへ告知をすぐにでもするべきだと考えていました。夫婦間で意見が合わず、取り巻く空気も険悪になっていきました。我々子どもたちも、非常に居心地の悪い空気をそれぞれ感じていたことを覚えています。今でも、この時の母の姿を思い出すと胸が痛み、涙がこみ上げます。これは後に知ったことですが、着床前診断のように学会から認められていない選択肢に関しては、患者から話が出ない限りは遺伝カウンセリング担当者からは積極的に話をしない作法になっていると伺いました。そして、これに出生前診断も含まれていることにも驚きました。もし当時に、父の遺伝カウンセリングの時点で着床前診断や出生前診断という選択肢があるということを遺伝カウンセリング担当者から伝えられており、それによって子どもが生まれているという実績があると両親が知ることが出来ていれば、あそこまで両親が思い悩むこともなかったかと思います。母が私たちに告知する後押しや精神の支えにもなったのだと思います。息子たちには同じ苦しみを抱かせなくても済む。それだけで我々家族にとっては大きな支えになったことだと思います。

 まだ、ハンチントン病は日本国内においては稀な存在であり、我々当事者が知りえる情報には辛く、悲しいものがほとんどです。その中に一つの希望や支えとなりえる、着床前診断や出生前診断の情報こそ、できるだけ早い段階で伝えていただきたい、いただきたかったと切に思います。それは一つの選択肢で構わないです、それだけで救われる家族が確実にいると思います。そもそもハンチントン病の遺伝子検査を行うまでの遺伝カウンセリングに時間が要してしまうというのも、私達にとっては厳しいハードルでした。ハンチントン病の遺伝子を持っていると告知されることが当事者に与えるリスクというのも理解できます。しかし、人によっては婚期や出産といった、人生の重要なタイミングにも大きくかかわります。実際、私に関しても今以上に時間がかかっていたら妻との結婚もどうなっていたか分かりません。伝えることのリスク、これも重要ですが、時間が経過することによって生じるリスク、この点においても遺伝カウンセリングを行う際には考慮していただきたいです。

 告知を受け、遺伝子検査をし、自身がハンチントン病の遺伝子を受け継いでいることを知った時に、一番気がかりとなったのは結婚と子どもに関して、でした。遺伝子検査の結果を知った当時は結婚しておりませんでしたが、正にお付き合いを始めたパートナーがいました。人生設計をしていく上で結婚と妊娠は避けて通ることが出来ず、相手に病気のことを告げずに結婚をするということは私にはできませんでした。例えそうしたとしても、いずれ私の病気のことを知る日が訪れ、子どもに対して私の母が感じたような不安を抱かせるという選択肢は私にはありませんでした。
 「自分自身が将来寝たきりになるかもしれない、介助が必要になるかもしれない。子どもが場合によっては死に至るかもしれない。その上自分と同じように将来は寝たきりになるかもしれない」そんなことを考えながらパートナーとお付き合いを続けていくのは苦痛でしたし、自分と結婚してくれないかと、パートナーに告げるにはかなりの勇気が必要でした。断られても仕方がない。もしかしたら自分は一生独身で生きていくかもしれない。半ばそうあきらめる気持ちもありました。幸いにも現在の妻であるパートナーは私との将来を真剣に考えてくれ、ともに病気に立ち向かってくれると言っていただき、彼女の両親、家族含めて理解を示してくれたことで結婚まで至りました。

 この時には、着床前診断の存在も知り、自分たちの子どもにはこの病気を引き継がせなくても済むかもしれないと、妻も理解していたので、着床前診断の存在が大きな後押しとなりました。着床前診断がなければ、結婚できなかったかもしれません。そしてこの結婚できたという事実が母の気持ちも救ってくれました。母が持つぬぐいようのない罪悪感を少しでも消し去る力に、私の結婚が担ってくれました。そして、私自身の晴れなかった気持ちも救ってくれました。この時に着床前診断という選択肢があったことに本当に感謝をしています。

 結婚し、妊娠に向けて着床前診断を受けさせてもらえるルートを入手し、着床前診断にかける胚を手に入れるため、いよいよ妻がクリニックに通う日々が始まりました。しかし、それは簡単な道のりではありませんでした。現行の着床前診断は日本国内では認められていないため、検査を受けるためには海外に検体を送り検査を行う必要がありました。また、一度の検査には莫大な金額がかかることから、一度でできるだけ多くの胚を送り検査の回数を最小限にして金額を抑えるために、大量の胚を確保する必要がありました。そのために、私達は2回の高刺激による採卵、顕微授精を経て、10個の胚を入手しました。それらを海外の企業へ送り、着床前診断にかけました。染色体異常とハンチントン病の遺伝子異常を検査し、ともにクリアした胚移植が行える胚を入手しましたが、その個数はわずか2個でした。この2個の胚を用いて2回の胚移植行ったのですが、ともに着床せず、妊娠には至りませんでした。

 最終的な費用は10個の遺伝子検査の費用がおよそ120万円、2回の高刺激による採卵費用が凍結必要を含めておよそ200万円。それに2回の胚移植手術でおよそ50万円。ここまでに、およそ370万円という金額がかかりました。それだけではなく、度重なる採卵と移植により妻は体調を崩したこともあり、体を動かす仕事で、柔軟に休みを組むことが出来ない職業であったことから、キャリアを円滑に組むことが出来なくなってしまいました。最終的に再度採卵からやり直そうと決断した時には妊娠することを最優先するために、妻は退職する決断をしました。年齢のことも考え、もう失敗することは許されませんでしたので、より多くの胚を検査にかけるべく、15個以上の胚を確保することを目標にして採卵に臨みました。その結果、3回の採卵を行い17個の胚を確保し、着床前診断にかけ、移植可能な胚を新たに4個確保することが出来ました。そこから胚移植を行いましたが、計3回目の胚移植は着床せず、4回目の胚移植でようやく着床、妊娠まで至りました。2回目の着床前診断に臨むにあたり、3回の採卵費用としておよそ300万円、着床前診断費用で160万円、2回の胚移植費用で60万円、およそ620万円という金額がかかりました。累計にするとおよそ990万円です。とても一般のご家庭に出せる金額ではないです。 

私たちの場合は、父の援助や祖父の遺産があり、この金額を受けても着床前診断を行い妊娠に至ることが出来ましたが、とてもではないですが私個人の力だけでは、これだけの金額を支払うことが出来ませんでした。そして、私と同様に着床前診断をしたくても出来ないという方々が世にたくさんいると思います。

金額がここまで高くなってしまった要因として、現在着床前診断が認可されていないことから、この話を受けてくれる病院を自由に選択することが出来ないこと、国内の検査が出来ないため海外での検査を余儀なくされることが挙げられます。今回相談を受けてくれたクリニックには非常に感謝をしています。

 しかし、金額や受けた治療内容を考えるともっと他の選択肢があればと思わざるを得ない点もあります。また、クリニック内においても、着床前診断の件に関しては秘密裏に動いているため、不妊治療と着床前診断は並行して動いてはいますが両サイドの担当者で情報の共有がなされず、妻と私は何度も精神的なストレスを感じました。例えば、診断によりハンチントン病の遺伝子を持った胚は破棄をせざるをえないのですが、そのことに対して「なぜ破棄をするのか?もったいない」といった言葉を言われたり、不妊ではなくハンチントンという病気で体外受精、着床前診断をしなければならないことを何度も何度も説明しなければならなかったり、その一つ一つが苦痛でした。また海外に検体を送らなければならないことで不要な輸送コスト等も加算されていきます。これらはハンチントン病というものがしっかりと認知され、着床前診断の話を公に皆が共通言語として使うことができ、着床前診断が認可されれば改善できる問題だったと思います。ただ子どもを生みたいという思いが金銭的な理由で妨げられるのはとても悲しいことだと思いますし、子どもを授かりたいがために心身共に傷つけられるのはつらかったです。今後、着床前診断を希望する方がいるのであれば、この全てとは言いませんが少しでも費用を抑えられるのであれば抑えて妊娠に臨んで欲しい、そしてストレスを感じることなく前向きに妊活を行えるようになって欲しいと願っています。

 そして、この着床前診断を経て妻の妊娠にまで至れたことで、私自身の心が救われました。ハンチントンの遺伝子を持っていると告知を受けた時から、頭では気にしない、発症したとしてもすぐに死ぬわけではない、父親も、父のきょうだいも60歳を超えても生きている、そう考えていても、頭の片隅ではいつも発症の恐怖が潜んでいました。何か行動を起こしても「でも、発症したらどうなるだろうか?」、嬉しい出来事があったとしても「でも、発症したらこれも続かないかもしれない。」このように思うことが多かったです。しかし、妻と出会い、結婚し、子どもを授かったことで、日々の暮らしが明るくなり、頭の中で暗い考えを思い返すことはほとんどなくなりました。たとえ考えたとしても、家族で前向きに取り組もうという気持ちに変わっていきました。病気に対して、前向きに考えていけるようになったのは妻や家族のおかげですが、このめぐりあわせには着床前診断があったからだと考えています。私は幸いにもお金に困ることがなく、理解のあるパートナーと出会うことが出来ましたが、その時にこの着床前診断がなければ今のような状況にはならず、暗い気持ちに頭を悩ませながら生活をしていたかもしれません。今の私の生活があるのは着床前診断があったおかげだと思っています。

 ここまでに私の経た経験をもとに話をしてきましたが、最後に着床前診断の是非に関して私の思いを述べます。着床前診断を否定される方の中には、「着床前に子どもを選別するというのは神の領域、命の選別、デザイナーベイビーを後押しするものだ」というような意見を持っている方もいるかと思います。
 
 私はこの意見のすべてを否定しているわけではありません。米国では着床前診断によって性別を調べることは一般的であり、実際、我々の着床前診断の結果に性別まで表示されるということに私と妻も驚きました。しかし、性別を着床前から選択し胚移植することに関しては私も妻も抵抗がありました。病気の有無とは全く関係のない、性という健常者と全くイーブンな点においては、私達は選択をしたくないと感じました。なので、私達の結果は性別の項目を事前に塗りつぶしていただき、分からないようにしていただきました。このような方法もあるかと思います。よって純粋に染色体異常とハンチントンの項目のみで胚を選別しました。染色体異常の項目に関しても、私たちの場合は何度も繰り返し採卵や胚移植を繰り返すことが出来ないため、妊娠の確率を上げるために用いました。単純な数字だけで考えると私達は計6回の移植のチャンスしかありませんでしたが、ハンチントンの遺伝子がなければこの倍である12回の移植の機会が得られることになります。この数字は私たちが一回目の着床前診断の時に送った検体の数と大きく変わりません。それだけ、私たちの条件は厳しいのです。私たちのハンチントン病もそうですが、世の中には人が想像もしないような病気や環境や境遇により、着床前診断を行うという選択をとりたいという人がいると思います。各々のどこに線を引くのか、これは非常に難しいことかと思います。しかし、皆が共通して持っている想いは無事に赤ちゃんを迎えたい、子どもに幸せな人生を送ってもらいたい、ただそれだけだと思います。そして命の選別に関しては、なぜ出生前診断は認められているのに着床前が認められていないのか、理解に苦しみます。むしろ、胎児が育った状態でしか行えない出生前診断の方こそ命の選別をしているというように私には感じられます。
 私達夫婦の思いは、ただ純粋に幸せな家庭を築きたい、このハンチントン病という遺伝子を後世に伝えたくないというただそれだけです。どこに、自分の子どもが治療法も分からない大病を患うかもしれないと分かった上で何の迷いもなく子どもを産むことのできる親がいるでしょうか?どこに、子どもが病気になってしまったことを悔い、悩み、苦み、当人を目の前にして涙を流している親を見て「それは仕方のないことだから」と何事もなく過ごすことが出来る人がいるでしょうか?私や私の両親のようにそれを避けられなかった人がいることもしょうがないことだと思います。しかし、それを回避することが出来る手段があるのであれば、その選択肢が誰にでも選べる環境でありたいと私は切に思います。

 ここまでの内容は私や妻、そして私の家族が実際に体験し、感じ、想ったことを包み隠さずに伝えたいと思い書かせていただきました。ハンチントン病の当事者団体JHDN(日本ハンチントン病ネットワーク)の中には私とは異なる考えを持つ方もいらっしゃるかと思います。また、他の遺伝性疾患の患者家族会の人達の中にも賛同していていただける方もいれば異なる意見の人もいらっしゃるだろうことと思います。しかし、少なくとも希望者には選べる選択肢として着床前診断が利用できるようにしてほしいです。私たちにとって着床前診断が希望となり、支えとなったように、着床前診断が多くの人々が少しでも明るく、次の世代へ命のバトンをつなぎ、一つでも多くの笑顔を増やしていくための誰にでも選べる選択肢となることを、そしてその事が確実に伝えられるということを、私は願っております。そのために私に協力ができることはできる限り行っていきたいと思っております。寛大な判断を何卒よろしくお願い致します。

■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■

JHDN事務局から

<すべてのお問い合わせ先>
〒108-8693 東京都港区白金台4-6-1東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 
公共政策研究分野内 JHDN事務局
事務局への電子メール jhdn@mbd.nifty.com
FAX  020-4622-3293 ※2021年10月末で廃止になります
相談メール jhdn@mbd.nifty.com
※相談電話は廃止となりました。ご相談はメールのみとなります

掲載された文章・イラストの無断転用は禁じます