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見直してください、遺伝子検査を伴う確定診断について

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  議論の経緯
      現在、HDの確定診断を行うために、遺伝子検査を行うことが主流となってきました。

  しかし、確定診断を行うにあたって、遺伝子検査はどうしても必要な検査行為ではありません。また、発症前遺伝子診断の同様に、遺伝子情報に基づく結果を伝えることになり、それが血縁者をはじめとする周囲の人々に与える影響は同じものです。違いは、依頼者が未発症者ではなく、患者であるという点であり、これには別の配慮を要するはずです。

  ところが、診療現場では発症前遺伝子診断ほどの慎重さがないように感じられます。例えば、半年待っても検査結果が伝えられない事例、結果の告知が電話で伝えられる事例、何のフォローアップもない事例など、JHDNにも相談が寄せられています。

  確定診断の告知の質が低いということについては、IHAでも議論されてきました。1994年の発症前診断のガイドラインでは、確定診断は適用外となっていますが、2001年のIHA会議では、確定診断を念頭においたガイドラインを策定すべく、ワークショップが行われました。このページでは、そのときに配布された検討資料を紹介します。また、ガイドラインに盛り込まれるべきだと考えた各国の意見も、徐々に掲載していきます。

  あなたの確定診断のスタイルは、それでよいのでしょうか? どうぞここでいま一度、見直してみて下さい。

   
   
  ハンチントン病確定診断のガイドラインに関する検討資料(2001年8月配布)
    この検討資料は、以下の人々によって、オランダでまとめられた。
--Mrs L. den Dekker, previous chaiperson of the Dutch lay association "Vereniging van Huntington", Velserbroek
--Dr H.P.H.Kremer, professor of Neurology, Nijmegen
--Mrs I.Lonink, previous chairperson "Vereniging van Huntington", Eemnes
--Mrs Dr M.Losekoot, molecular geneticist, Leiden
--K.Varkevisser, family doctor, Alphen a/d/Rijn
--Dr L.N.Went, emeritus professor of human genetics, Oegstgeest



 1993年に、ハンチントン病(HD)の原因となる遺伝子の異常が確認され、DNAレベルでのHDの確定診断、さらに発症前診断が可能となっている。

 HDの当事者グループとHD研究者や医師が協力して努力した結果、どのようにして発症前の検査が行われるべきかについてのガイドラインが作成され、 それ以来、関係者に幅広く受け入れられ、利用されている。広範囲に渡る調査・研究が行われてきた結果として、ガイドラインに従って正しく実施される場合には、発症前診断が受診した人とその家族にもたらす心理的な影響は許容範囲内にとどまるということが示されてきた。

 発症前診断のガイドラインでは、その序章に「確定診断を目的として行われる遺伝子検査の場合(例:臨床症状での判断が疑わしい、あるいはわかりにくい場合)は、ガイドラインの条項は適用されない」と明記されている。しかしながら、確定診断であっても、きょうだいや他の家族に深刻な衝撃を与える可能性も残されているのである。

 一見、家族歴がない、既に症状が出始めている人が、遺伝子検査によってHDと診断できるようになっている。しかし、遺伝性で、進行性で、止めることのできない脳疾患の存在を知ったとき、人々は深刻な心理的、精神的打撃を受けることは明らかである。つまり、確定診断は患者本人にだけではなく、パートナー、子ども、親族に直接に関わってくる存在なのである。

 そのため、このような状況に対応するためには、より多くの時間が割かれるべきであり、同時に専門的なフォローアップがなければならない。

 だが、残念なことに、多くのHD当事者団体が経験したところによると、往々にして病名告知のときにはフォローアップが十分に行われることはない、あるいは、最初から病名告知の段階でのフォローアップなど存在しないという。

 そこで、この検討資料を用いてフォローアップが不十分であると考えられる事例を検討する。この検討資料の目的は、当事者団体の経験を元にして、臨床医、心理学者、その他のヘルスケアに関わる専門家が、HD患者と家族に診断後のサポートを最も効果的に与えることができるようにするための文献を作成したい、ということにある。


不十分な体制で行われた確定診断の例

A氏(女性、38歳)の場合
 「妻は人が変わってしまった」と指摘している夫と、3人の学齢期の子供たちによる強い要請によって、それはAさん本人にとってはかなりの誇張に感じられるのだが、担当医を訪れている。雇用主や同僚との確執が、以前と比較すると顕著に頻繁になっているという。主治医は、多少の不随意運動を認めているが、自分には最終的な診断を行うための経験が不足しているとして、Aさんを神経内科医に紹介する。
 この神経内科医は、Aさんには家族歴がないとはいえ、HDの可能性があると考える。神経内科医の依頼によってDNA検査が行われたところ、HD遺伝子が疑いなくあり、不随意運動と言動の変化の理由が説明できることになった。
 神経内科医は、検査結果の情報を電話でAさんと主治医に伝え、それによって自分の役割は終了したと考えている。

コメント:
 HDの診断を行うこと自体は正しい行為であったが、どのようなことがあっても遺伝子検査の結果を電話で伝えてはならない。神経内科医は依頼者と直接に向き合って、親族も含め、検査結果に続くすべての事項を十分な時間をかけて話し合い、質問に答えなければならない。

B氏(男性、44歳)の場合
 母親が7年前にHDで亡くなっているB氏は、一時期精神障害に見舞われてきた。彼の精神科医は、これはHDの症状かもしれないといい、遺伝子検査を受けるように勧めている。B氏は診断を拒否するが、精神科医は(診断無しには)B氏を助けられないとして、強く勧めた。

コメント:
 DNA検査を勧めることは理に叶っているようにみえるが、患者には確定診断そのものを拒否する権利があり、そこに医師の強制があってはならない。また、DNA検査の結果がない限り援助できないというのは正しくない。HD患者の精神症状への治療は、他の患者を治療する場合となんら変わるところがないからである。

C氏(男性、52歳)の場合
 C氏にはHDを発病する確率が50パーセントあるが、完全に健康体で、普通だと自覚している。しかし妻は、C氏がぎこちなくなり、性格も変わったと感じている。そのため、C氏を同伴して、神経内科医を訪れた妻は、DNA検査を受けるようにと強く要請する。神経内科医は C氏に目立った異常を認めなかったものの、C氏が拒否しつづけるにもかかわらず、検査を受けるようにとアドバイスする。

コメント:
 検査の受診を拒否する場合、本人の意思は同伴者よりも優先される。臨床医が道義的観点から圧力をかけることは、許されることではない。

Dちゃん(女児、12歳)の場合
 両親は、「学校での成績が落ちてきている」という理由で、娘のDちゃんを専門医に連れてくる。37歳になる父親は(今のところ?)健康だが、彼の母親は3年前にHDで亡くなっており、兄弟のひとりはすでにHDの症状を表している。
 主治医は、今のところDちゃんには神経学上の異常がどこにもみられないにもかかわらず、DNA検査のための採血をした。

コメント:
学校での成績低下は、若年性HDの徴候と疑う理由に全くなり得ない。神経学上どのような異常も認められない場合に行われるDNA検査は、発症前診断としてみなされる。国際的に承認されている発症前診断のためのガイドラインでは、18歳以下の者への実施を認めていない。いずれにせよ、この主治医は何故父親が自分自身の検査を最初に依頼しなかったのかを話し合うべきだった。

E氏(女性、28歳)の場合
 父親がHDであるため、臨床遺伝学の専門医に発症前遺伝子診断を依頼する。主治医は、彼女に不随意運動があることを認めるが、それは告げずに神経内科医にみてもらうように伝え、DNA検査のための採血を行う。彼女を診た神経内科医は、その6週間後に、彼女がすでに発病していること、そして遺伝子診断の検査の結果、それが確定されたことを伝える。E氏は大変失望し、また怒りを感じている。
コメント:
 臨床遺伝学の専門医は、症状が出ている可能性があることや、神経内科医の意見を必要とする理由について、E氏と十分な話し合いをしなかったところで過失を犯している。話し合いの後に出されるべきE氏からの同意がなかった時点で、DNA検査のための採血は行われるべきではなかった。

F氏の場合
 F氏の母親は、医療機関の犠牲者と考えられる。HDがもたらす様々な症状について、当時の医学関係者の理解度が低かったため、15年以上に渡って多くの大学病院関係者や専門家を転々としたからだ。症状からどのような疑いがあるかという情報は、医師側からは、F氏の母親にも親族にも長い間全く与えられず、ある日突然、彼らの母親はハンチントン病であると告げられるのだった。この時、既に母親は老人ホームに入所して、しばらくたっていた。病名以外は何も教えてもらえず、F氏と家族は友人に尋ねたり医学辞典を調べたりし、これが家族である自分や子供達にとってどういう意味があるのか、自力で情報を集めなければならなかった。

コメント:
 何も知らない家族が、突然遺伝性で進行性の神経疾患と向き合うことになるのは、避けなければならない。細心の注意が払われた、密度の高い内容の情報と指導が随時入手可能でなければならず、それは検査後にも継続されなくてはならない。また、HDの当事者団体についての情報も与えられるべきである。*

*最後のF氏の母親の事例は、マンフレッド・ドウズ教授(ドイツのハンチントン病協会の科学諮問委員会委員)が、ドイツハンチントン協会ニュースレター"Huntington Kurier"に投稿した「何故ガイドラインが必要なのか?」という文章からの抜粋である。この中でドウズ教授は、ハイデルベルグとブレーメンの科学者らが「心理療法 "Psychotherapeut"」誌 (2001, vol.46, pp36-42)に発表した論文:「ハンチントン病における発症前診断検査("Pradictiver Gentest fur Chorea Huntington")」を穏便な態度ながらも真っ向から批判している。この文章中では、1994年に出版されて以来、幅広く知られており、ドイツ国内でも科学部門の文献として出版されてあるはずの「発症前診断のための国際ガイドライン」の存在がどこにも記されていないためである。著者は発症前診断検査を受けたいという41名の患者について述べているが、そのうちの半数以上がすでに神経あるいは精神に症状をみせている。これは発症前診断ではなく、確定診断検査であることが歴然としている。さらに、著者はカウンセリングの際には家族員の最低一人が依頼者と同席するべきであると主張するが、依頼者がカウンセリングのプロセス中 に(家族がいたとして)家族の同席を望んだか否かについては言及されていない。


確定診断のプロセスについて考慮すべきこと

1.誰がHDであると診断するか
 通常は神経内科医が行うが、精神科医や臨床遺伝学者が診断する場合もある。家庭医やその他の専門家は、HDが比較的稀な疾患であることから、確定診断を行うことには消極的である。また、初期症状からHDと診断することは難しい。
 しかし、HD当事者団体や団体が公表している資料が上質な情報を提供していることから、今では本人や家族自身が診断を下すことも可能である。もちろん、こうした診断はHDに詳しい医学専門家によって再確認されなくてはならない。

2.HDの確定診断はどのようにして行われるのか
 HDと臨床上で診断するために概ね合意されている観点としては、不随意運動が症状として表れていることが挙げられる。精神症状や認知障害は、疾患の特徴とは言い切れないと考えられている。1993年に変異遺伝子(CAG繰り返し配列の反復)が発見されて以来、「孤発例」とみられるケースも診断可能となった。このため、HDの家族歴があることが、診断を下す際の必要条件のひとつではなくなっている。臨床上の徴候が不明瞭である場合、あるいはそれらが典型的な症状にあたらない場合、(HD遺伝子があるということになる)CAG繰り返し配列の反復が発見されたとしても、それが発病の証拠にはならない。

3.HDの確定診断と他の神経疾患や精神病の診断とは、どう違うのか
 神経内科医と精神科医は、困難で不愉快な診断結果を患者に伝えることには慣れているだろう。しかし、これが優性遺伝の脳疾患となれば、この情報が親族全体に直接影響を及ぼすという新たな困難が加わることになる。HDの診断は患者本人だけでなく、同伴者、子供、そして親族にも深刻な精神的打撃を与えることになる。このような複雑な問題と向き合わなくてはならない医師は、問題が持つ追加的な重荷が持つ意味を理解したうえで、これをあますところなく話し合う十分な時間を準備しておくこと、そして主要な点を文書にして患者と家族に確認することが望まれる。さらに、HD当事者団体の情報や文献が付与されることもまた、非常に望ましいことである。

4.HDの確定診断に向き合う人は、どのような問題に遭遇するか
 HDの確定診断に向き合う人々からしばしば聞かれる苦情は、まるで有罪判決のような深刻な情報を伝えられるにあたって、告知を担当した医師の配慮が不十分であった、あるいは間違った情報が与えられさえした、というものである。医師のHDに関する知識が不十分であった、と非難する声もきかれる。深刻な診断結果が告知された後のアフターケアが往々にして十分ではないこともまた、とても残念なことである。

5.理想的なHDの確定診断と病名告知のプロセスのために必要な条件とは?
・診断を行い、病名告知をする医師が、HDに関する知識を十分に持っていることが、前提条件として必須である。

・臨床上からみとめられる症状、発病している家族員の既往歴、検査結果(DNA解析結果、CAGリピート数)との間に、確実なバランスがなくてはならない。

・診断結果は、患者本人の依頼がある場合にのみ、告知されなくてはならない。医師は、患者が診断結果を聞く意思があり、準備ができているかを確認するように試みるべきである。

・診断結果は、十分な思慮と気配りをもって、直接対面しながら告知されなければならない。電話や書簡で伝えることは、たとえその後に面接を予定しているとしても、認められるものではない。HD当事者団体についての情報が与えられることが勧められる。

・どの臨床医、心理学者、臨床遺伝学者、その他の専門家と診断結果を協議すべきか、患者と話し合い、本人の了解を文書にしておくことが望ましい。

・適切な遺伝カウンセリングを行うことは、診断結果告知のプロセスのなかでも必要不可欠な部分であり、必ず利用できる状況でなければならない。遺伝カウンセリングには、どのようにして周囲の親族に診断結果を伝えるかという問題も含まれている。

・診断後、十分なフォローアップが用意されることを保障しなければならない。過激な悲嘆や拒否反応に対する特別な留意が必要である。ここでの主治医の援助は、決定的に重要である。

・DNA検査の依頼をしているものの、それが本人にとって発症前診断であるか、あるいは確定診断なのかどうかがはっきりしない場合には、国際的な発症前診断ガイドラインにのっとることが望まれる。

・本人にはCAGリピートの数値が明かされないというのが基本的な姿勢である。

   

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