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 WFN/IHA発症前遺伝子診断についてのガイドライン全文訳

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World Federation of Neurology /International Huntington Association,1994
Journal of Medical Genetics (1994;31:555-559)
Neurology (1994;44:1533-1536)
武藤香織 訳
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1.  診断を受けたいと思っている全ての個人は、彼らが情報を与えられたうえで自発的な決断ができるように、関連する最新の情報をくまなく与えられるべきである。
     最高水準のカウンセリングは、どの国でも受けられるようにするべきである。標準的な医療行為の結果として、診断のためのインフォームド・コンセントを行ったという文書が残ってなければならない。また、その文書には診断を受ける対象者の署名が付記され、カウンセリングにおける専門家の責任について明記されている必要がある。
2.  診断を受けるという決断は、ひとえに当事者の選択による。第三者(家族など)からの要求は一切考慮されない。
個人は診断を受けるかどうかについて自由に選択しなければならない。そして、家族や友人、現在の配偶者、将来の配偶者、医師、保険会社、雇用主、政府などから強制されることがあってはならない。
2.1 診断は、成人年齢に達した個人のみが利用できる(成人年齢については各国の法律に基づく)。
出生前診断の場合は、この勧告の例外である。養子縁組にあたっての診断実施は認められない。なぜなら、縁組される子どもは診断を受けるかどうかを自分で決断する機会を持てないからである。しかしながら、子どもが物事を判断できる年齢に達した時には、「あなたはリスクのある立場にあるのだ」と伝えることは望ましく、もしくは基本的なことである。
2.2 財政的な事情にかかわらず、診断を受けられるようにするべきである。
各国の当事者団体は、政府諸機関や公私を問わず保険に関連する組織、その他の団体に対して、この目的を達成できるように影響力を行使するべきである。
2.3 個人は、ハンチントン病の遺伝子診断の結果によって、いかなるかたちでも差別されてはならない。
2.4 診断についての情報が、診断の実施を要求しなかった別の人物に伝わる場合には、細心の注意を払うべきである。
25%の発症リスクを持ち、かつ病気に関する知識を十分に持っている子どもがいるが、しかし親は自分のリスクに関する状態を知りたくないという場合に、こうした問題が生じるだろう。このような葛藤状態に際しても周囲の人々が満足できる結果が得られるように、カウンセラーと関係者によってあらゆる努力がなされるべきである。当事者団体のうち相当数は、もし満足な解決に至らなかった場合には、成人した子どもの「知る権利」が親の「知りたくない権利」を優先するべきだと感じている。
2.5 深刻な精神医学的な症状を示す対象者に対しては、診断の実施を遅らせ、そのサポートのサービスが間に入ることが望ましい。
2.6 ハンチントン病への診断は、対象者から特別な許可を得ずに採取するような通常の血液検査の一部として行うべきではない。

対象者が既に発症している場合であっても、原則として本人に特別な許可を得る必要がある。

2.7 診断結果の所有権は診断実施を要求した個人に帰する。保存されたDNAの法的な所有権は血液を採取された個人に帰する。
同意文書を通じて明確にしておくべきである。それぞれの国の弁護士の見解を参考にすること。
2.8 全ての検査施設は、厳格な基準を満たす検査精度を維持することが求められる。研究者は、遺伝カウンセラーや診断サービスを提供する他の専門家とともに仕事を進めていかなければならない。
当事者団体は検査施設のレベルを調査できる立場にある。そして、この調査結果に基づいて、診断を希望する人やすでに診断を受けた人を支援することができる。
2.9 カウンセラーはカウンセリング理論について特別な訓練を受けているべきであり、学際的なグループを構成するべきである。
このような学際的なグループとは、例えば遺伝学者、神経学者、ソーシャルワーカー、精神医学者や医療倫理の問題を担当する専門家などで構成される。
3. 対象者は診断の全てのプロセスに同行できる同伴者を選択できるように支援するべきである。全てのプロセスとは、診断前の段階、診断中の段階、結果の告知段階、診断後の段階である。
この同伴者とは、配偶者やパートナー、友人、ソーシャルワーカーなど、対象者の信頼を得ている人物である。しかし、リスクを持つ人物が同行するのは適当でない。
3.1 カウンセリング・グループは、対象者が同伴者を選ぶかどうかにかかわりなく、対象者に対して診断前後の一定期間に支援を行うためのフォローアップのプログラムを計画するべきである。 
個人の居住地域に近いところでサポートを受けられるようにすべきである。
4. 診断とカウンセリングは特別な遺伝カウンセリング・グループの内部で一貫して行われるべきである。そのグループとは、ハンチントン病に関する分子遺伝学的問題についての知識が豊富であり、できれば大学に所属していることが望ましい。大学内の施設は、各国の当事者団体と緊密な関係を保ちながら、診断を進めていくべきである。
しばしばカウンセリング施設以外の場所で診断が進められる場合もある。また、自国に当事者団体がない場合には、IHAに連絡を取るべきである。
4.1 診断を実施する研究室は、対象者に診断結果が明らかにされる直前まで、カウンセリング・グループに最終結果を知らせるべきではない。
その目的は、対象者にカウンセリング・バイアスがかかる可能性を最小限にすることである。
4.2 いかなる状況においても、対象者が許可した文書がない限り、カウンセリング・グループや診断の技術スタッフの一員は、診断に関するどんな情報や結果も第三者に漏洩してはならない。
最も例外的なケース(例えば、昏睡が長引いている場合や死亡した場合など)の場合に限り、必要があれば、家族に対して診断結果についての情報を提供してもよい。
4.3 カウンセリング施設や診断施設において、発症前診断をする目的で、対象者の親戚のDNAを入手するために、対象者の許可を得ないまま対象者の親戚に直接連絡を取ってはならない。親戚に連絡を取るときには、細心の注意を払うべきである。
5. 基本的な情報
基本的な情報とは、診断のプロセス全体にとって必要不可欠なものを指す。
5.1 一般的な情報
この情報は、口頭と文書の両方で説明されるべきであり、診断サービスに責任を持つ診断チームによってなされるべきである。
5.1.1 ハンチントン病に関する説明。臨床所見上ハンチントン病に類似した兆候に関する説明も幅広く含んで、社会的心理的問題点、遺伝的側面、出産、治療の可能性などについても説明しなければならない。
現時点では予防も治癒も不可能であることを必ず伝えなければならない。
5.1.2 遺伝的なつながりの否定についての示唆。
遺伝子診断は、推定上の親が生物学的親ではないという結果を示す可能性がある。この点について、対象者に注意を喚起し、事前に協議しておくべきである。体外受精のような技術が普及してきた背景にともない、母親と血縁関係がない場合なども判明される場合がある。
5.1.3 当事者団体から得られるサポートや情報についての説明。当事者団体が作成したハンチントン病についての情報、連絡先なども含めること。
もしその国に当事者団体がなければ、国際ハンチントン協会や近隣国の当事者団体へ連絡を取ることが可能である。
5.1.4 社会的心理的サポートやカウンセリングは、診断手続が始まる前の段階から利用できるようにしておかなければならない。
当事者団体は、補足的なサポート提供機関や情報源として対象者に紹介されているべきである。
5.2 診断に必要な情報
5.2.1 診断が実施されるプロセスについて。
5.2.2 家族のうち発症している1名からのDNAが必要になる場合があること、そのことを原因として発生するかもしれない諸問題について
既に発症している人であっても、自分の病状について知らない、あるいは知りたくない人から血液を提供するように求めることは、プライバシーの侵害にあたる。
5.2.3 診断の限界(精度、診断が有益でない可能性など)について
5.2.4 原因遺伝子が発見された場合であっても、現段階では発症年齢や症状の種類、症状の重さ、進行の進み具合などについての有益な情報は提供できないことを、カウンセラーから説明しなければならない。
CAGリピートの回数の問題については、より多くの情報が提供されなければならない。
5.2.5 発症前診断は、原因遺伝子を受け継いでいるかどうかを指し示すものであり、もし原因遺伝子が存在していたとしても、HDの臨床上の確定診断を意味しないということ。
HDの初期症状を示していると思われる対象者の場合には、特別な注意を払うべきである。しかしながら、症状は固定しているが本人はその事実を認めていないという人の場合は、自動的に診断対象から外すのではなく、追加的なカウンセリングを受けるようにするべきである。
5.3 結果についての情報
診断の拒否に関する情報から原因遺伝子の有無に関する情報まで、すべての結果について協議されるべきである。
5.3.1 対象者本人に対して
5.3.2 対象者の配偶者やパートナー、子どもに対して
もし対象者の同伴者が配偶者やパートナーでない場合には、配偶者やパートナーに対して特別な配慮をするべきである。
5.3.3 発症している親やその配偶者に対して
発症している親は、子供の結果を知ることによって様々な影響を受ける。その感情には十分に配慮するべきである。
5.3.4 対象者の家族のほかのメンバーに対して
どのような結果が得られても、他の親戚や対象者の人間関係に影響するであろう。
5.3.5 将来の雇用や保険、社会保障、データ保護などの問題を含め、診断結果によって起こる社会的経済的な問題
5.4

対象者が考えうる他の選択肢についての情報

5.4.1 当分の間診断を受けないという選択肢
5.4.2 研究のためにDNAを保存すること
5.4.3 家族や本人が将来使用することを考えてDNAを保存すること
5.4.4

5.4.2に基づいて保存されたDNAが、もし有益な結果を得るために必要であれば、本人の死亡後に家族による要請によって使用できるようになること

5.4.5 5.4.2や5.4.3に基づいて預けられたDNAの場合、DNAを収集しているグループは、その使用目的を書面で明確に記しておくこと。また、記された以外の目的にはサンプルを使用しないことも記しておくこと。これらの文書は、ドナーに渡さなければならない(5.4.4の例外を除く)。
6. 重要な予備調査
6.1 対象者の家族において、ハンチントン病という診断が正しい結果であるという点を確認しておくことは重要である。
6.2 神経学的な検査や心理学的な判定は、対象者のベースライン調査として評価を行うのに重要だと考えられている。他の専門的な検査は、常に強制的とは限らない。検査を却下しても、診断の実施に影響を与えるものではないためである。
対象者がこれらの検査や他の追加的な検査の実施を拒否したとしても、対象者に診断を差し控えさせる理由にはならない。
7. 出生前診断
7.1 ハンチントン病の原因遺伝子に関する出生前診断は、親が診断を既に受けている場合にのみ実施されるというのが原則である。例外事項は7.3を参照のこと。
両方の親が出生前診断に賛成していることが最も望ましい。もし両者の間で葛藤が起きている場合には、同じ結論に導かれるようにカウンセラーや両者自身があらゆる努力をもって対応するべきである。ただし、例外的な状況は(レイプや近親相姦による妊娠)はこの項目から除外される。
7.2 出生前診断を希望するカップルが、「胎児が原因遺伝子を有していても妊娠を継続したい」という希望を持っている場合、これは診断を実施する理由として妥当ではないことをはっきりと伝えておくべきである。また、この状況は2.1の勧告に反する。「原因遺伝子をもって生まれた子どもが成人に達してから診断を受ける」という選択はできなくなってしまうからである。
胎児を診断することは、流産の危険や、あるいは先天性異常へのリスクがわずかに生じる。
7.3 出生前診断を行う施設は、もし50%のリスクを持つ人が特に希望する場合には、将来の妊娠のための排除診断(exclusion test)を実施してもよい。この診断では、リスクのある本人とそのパートナー、両親、そして胎児が検査を受ける必要があり、DNAのプローブを結びつけるだけで診断できる。

排除診断は原因遺伝子が発見される以前にしばしば行われてきたが、その目的は50%のリスクを持つ人に対して、その人の50%のリスクについてははっきりさせずに、原因遺伝子を持つ子どもを持つ可能性そのものを排除することを認めることである。この診断によって、胎児に50%のリスクがある場合には妊娠の終結が可能となり、胎児のリスクが低い場合には妊娠の継続ができるようになる。

8. 診断の結果の告知
8.1 例外的なケースを除いて、診断前の情報提供から診断を受けるか否かの決定までには、最低一ヵ月の時間が必要である。カウンセラーは、診断前に提供した情報が正しく理解されているかどうかを確認し、そのための主導権を握るべきである。しかしながら、連絡のやりとりは対象者の要請にのみ基づいて維持されるべきである。
出生前診断は例外的なケースと考えてよい。情報を与えられた上で決定を下せるようにするためには、診断前に与えられた情報を消化することが必要であり、そのためにも熟慮のための時間を持つことが必要である。この間に、診断の実施施設の専門家によって次の段階のカウンセリングや協議ができるように準備を整えておくべきである。
8.2 発症前診断の結果は、診断の終了後、可能な限り早いうちに、かつ前もって診断を行う施設とカウンセラーと対象者との協議によって定められた日にちに、告知されるべきである。
8.3 結果が告知されるときのマナー(伝え方)は、カウンセリンググループと対象者との間で協議しておくべきである。
8.4 対象者は、告知される日として決められた日程以前に、結果が自分に知らされることのないように決める権利がある。
8.5 対象者とその同伴者にカウンセラーが対面した上で、診断の結果が明らかにされるべきである。電話や郵便で結果を伝えるべきではない。カウンセラーは対象者とあらゆる疑問について話し合うのに十分な時間をもうけなければならない。
8.6 診断後に行われるすべての手続きは、診断の結果を告知した瞬間から可能になっておくように準備しておくべきである。
9. 診断後のカウンセリング
9.1 診断後のカウンセリングの頻度や方法は、カウンセリンググループと対象者との間で、診断を実施する以前に話し合っておくべきである。しかし、対象者には事前に予定していたプログラムを変更する権利がある。人それぞれにカウンセリングの強度や頻度は異なるが、いつでも受けられるようにしておくべきである。
9.2 結果の如何にかかわらず、カウンセラーは結果の告知をしてから一週間以内に対象者に連絡を取るべきである。
9.3 結果の告知から一ヶ月以内にコンタクトがとれない場合には、カウンセラーはフォローアップの主導権を取る必要がある。
9.4 基本的に、対象者の財政的な状況にかかわらず、診断後のカウンセリングを受けられるようにするべきである。
9.5 当事者団体は診断後の期間に重要な役割を担っている。当事者団体による情報やサポートは、対象者が当事者団体に所属しているかどうかにかかわらず、いつでも対象者に提供できるようにするべきである。

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